「……彼らは死ぬ間際に必ず僕を見つけます。今わの際の人間は本当に恐ろしい。目が合って、僕を視界に取り込む。彼らはほっとした顔をする。或いは非常に……、そこに居たんだねっていう顔ですよ、あれ」
言葉を飲み込んだ。何を?
「探してたわけじゃないのに。或いは彼らには僕が死神にでも見えているんでしょうかね。ところで君は西洋魔術とか好きですか?」
げんなりした。
「ほらほら覚悟があるなら気をしっかり。西洋魔術に詳しくなくとも、魔女が空を飛ぶことは知ってるでしょう。でもあれは一説では別の飛び方をしている。彼女らは箒でなくとも良かった。媚薬とかいう存在の疑わしい代物を使って飛んでいた。ドラッグや幻覚作用のある薬を飲んでトリップするとかトぶとか言いますよね。あれと一緒なんですよ。ワルプルギスの夜やサバトに出た魔女なんかが吹聴したものが伝わっちゃったんでしょうかね。簡単に言えば暗喩。航空ファンを持っていた君をそうだと勘違いしたのもアリと言えばアリじゃないですか? 死ぬときってセックスの200倍は気持ちいいらしいですよ」
明確に言われて戸惑った。
「お前が居たから、あの日飛び込んだんじゃないのか、あの人は」
「さあどうでしょう。それは君が良く知っていますよね。あの日は短時間に二つも、同じ駅で人身事故が起きた」
喉が乾いた。スニーカーの先でテーブルの脚を蹴った。
「良い反応ですね」
「どういう意味で?」
「考えてください。ところで今日はどこへお出かけだったんです?」
「暑いし宿題やらなきゃいけないから図書館……」